古典のちから 1
じっと誌面を見つめることしばし。おもむろに指さすその先は、ちょうど真ん中、3番目。
「わかった、草書体でいくのね。」
こくんとうなずいて、にっこり。
「うん。いちばんカンタンそうだから。」
「そうかなぁ。じゃ、書くよ。」
かわいい二つの瞳はもう その文字から離れない。
筆をとって、一枚。後にも先にもこの一枚、そんな気持ちで。
今日は『文字のすがた』(全書芸誌 学生版)のお稽古をしましょうね。
「わぁい!」「よっしゃー!」
とたんに輝きを増す表情から、満々のやる気がわきあがっているのが分かる。
たった一文字なのに、なぜこんなにもひきつけられるのだろう。
子どもたちは、それぞれの学年の課題よりもこの一文字書きが大好き。
食い入るように見つめる、集中した視線の先に。
古典の力、底知れぬ魅力を、子どもたちも感じてくれているのかな。
それを今、ここで共に楽しめる、なんて幸せなんだろう。
墨を含んだ筆が紙面に着地し、走り出す。
紙との摩擦で起きる音、軌跡から花開くように立ち昇る墨の香り、溶けるように吸い込まれていく墨の色の変わりよう。
そして、線と線が綾なして… (つづく)
◇日々、お稽古場でくりひろげられるドラマ、学書にまつわること、学書以前のことなどをつづりながら、読んでくださるあなたとともに書道への愛を深め、育てていきたく思います(杏秋)◇