淺沼一道先生の思い出 天国からの“指示書”=「弛まず臨書せよ!」

千葉豊翠
蒼庭子書院(北海道帯広市)

全書芸展の出品が終わってから毎年のごとく部屋の片付けが進まず、扉を開けるたびに憂鬱が続いています。もうすぐ12月。遅かれ早かれ部屋の片付けをしなくてはと思い数日前から色々と整理を始めました。

そこに一塊の封筒がありました。

中身は丁度私が師範に合格する前後の平成7、8年、淺沼一道先生からいただいた朱手本や添削、批評の手紙の数々。
十七帖、高貞碑、智永千字文、乙瑛碑、曹全碑、雁塔聖教序、等々。全書芸で定番となっている課題のそれです。

当時は無我夢中で課題が済めばたたんでしまい込んでいたのでしょう。しかし一目で何の臨書かがわかる、いや今だからわかるのでしょうか、とにかく一枚一枚広げながらそこに書いてある解説、注意点、気分の取り方について時間を忘れて読んでいました。
速度感あるお手本の数々は、私を一瞬にして25年前の十勝での講習会に引き戻しました。目の前で次から次へと手本が書き上げられていく様を生々しく思い出しました。

先生の丁寧な解説を読むにつれ、はたと気付いたのです。
「これは先生からの指示書だ!」と。
もし仮に、当時私の書に対する姿勢が「勉強」ではなく「仕事」だったとしたら・・・
これほどわかりやすい指示書は無い!(先生、失礼な言い方で申し訳ありません)
「仕事」と思うくらい当時の自分が「真剣」であったなら、書かれたものの奥にあるもの、解説された言葉をもっと深く読み取ろうとしたのではないかと。

淺沼先生に会うことができなくなって2年以上が過ぎました。でもまたこうして手元に残っている「指示書」を見つけ出した今、
「さぁ、書き続けてください」という声が聞こえた気がします。
はいっ!!

気が付けば、部屋の片付けは一向に進まず、先生との思い出を整理し続けていました。
整理と片付けは意味が違うということも知り始めたのです・・・


淺沼一道臨書「高貞碑」
高貞碑①
淺沼一道臨書「高貞碑」
高貞碑②
淺沼一道臨書「高貞碑」
高貞碑③
淺沼一道臨書「十七帖雪積凝寒帖」
十七帖 雪積凝寒帖
淺沼一道臨書「智永千字文」
智永 千字文