美しい曲線美の歴史『入門 日本書道史』ブックレビュー
牽洋
「歴史はちょっと苦手」
「もっと学生時代に日本史を勉強しておけば良かった……」
がこの本との初対面だった。
私と同じような初対面を果たしたあなたに、本書の頁を最後までめくることができた私から、一つ提案させてほしい。ページをめくって図と写真を眺めることから始めてみてはどうだろう。
書道を専攻する大学生に向けた30回の授業の内容がベースになっている入門書。「日本の書の始まり」から「日本の書のスタイルの確立」、そして「日本の書文化の広がり」へと一連の流れをわかりやすく伝えようと、数多くの図や写真が語っている。「これなら歴史が苦手な私にも読めるかもしれない」そう思えること、請け合いだ。
書道の長い歴史を「日本独自の美意識に根ざした書」という観点から著者がつづった日本書道史。特に興味を引くのは、平安時代である。日本の三筆と呼ばれる「空海・嵯峨天皇・橘逸勢」、三蹟と呼ばれる「小野道風・藤原佐理・藤原行成」が現れた時代だ。漢字だけを見たら読み方すら怪しいが、そこは安心。人名など難しい漢字にはふりがながふってある。
よく知られている「弘法筆を選ばず」という言葉。本当の名人は、道具の善し悪しなど問題にしないというたとえだが、本書には空海が書体別に適した筆を嵯峨天皇に献上していたというエピソードが。名人であっても、ちゃんと筆を選んでいたことで道具選びの重要性を再認識。平安時代には「筆をとる道」と『源氏物語』に登場していることから「道」として日本に書が根付いた背景を知ることができた。日本の書道史上、平安時代がキラキラした「黄金時代」であることを様々なトピックスから感じとることができて、歴史の勉強への抵抗感が少しずつ薄れていった。
現代の私たちが字の習い始めに練習するのは「ひらがな」。日本で生まれた曲線美を表した素晴らしい文字だ。日本独自のかな文字は、日本人の美意識の集大成ともいえる。
かつての寺子屋教育にあった「心正しければ筆正し」の言葉とおり、書道という一本の「道」に触れ、真っ白な紙を前に、筆を手にしたとき、自然と背筋がピンっと伸びていた。