千円の筆ペン
ペンネーム悪筆子
パン屋さんとケーキ屋さんが全滅に近い田舎の街である。飲み屋街と化した人も店もない街に高層マンションだけは続々と建つらしい。周辺の全国チェーンのスーパーではうさぎと亀に因んだ特売日だけ混み合いお年寄りパワー全開である。
街に残った数少ない古い店の中には、いつ仕入れたかわからない品物が置いてある店もあり子供時代に見たコント番組のなんとかばあさんのコーナーを思い出す。
あと数年で閉店すべく仕入れを減らして細細とやっている紙屋さんに久しぶりに行った。お互いに歳を取り話をしていても固有名詞が出てこない。古い作りの店にはクーラーを止めていても時折いい風が入る。ふとレジ横の小さな棚に話題が移りこの棚ももう仕入れないのでスカスカでとおばさんは言う。確かにスカスカである。この三つの太字の筆ペンももう仕入れないとおばさんは言葉を続ける。見慣れたペンではあるが、そう言われると急に気になる。珍しいのではと聞くとそうですとおばさんは言う。このペンで提出間際に作品の空欄の級のところの数字だけ書いたらバレるかなと冗談を言うとバレますとおばさんは即答する。
あと3つの言葉に引かれ一つ買ってみる。千円したが少し負けてくれた。
家に帰り早速紙に色々書いてみると面白い感触がする。半紙を出して級のところに数字を書くとすぐ激しく滲み確かにバレると実感した。
ちょっとしたいたずら心を楽しんだ夏の日の一コマである。