色々考えて
ペンネーム悪筆子
最近では店の入口に小さな昔ながらの木の椅子を置いて座ってることの多い紙屋さん。椅子の上にはちいさな座布団も置かれときおりもう一つの椅子にお年寄りが腰掛けて二人でおしゃべりしてる光景が外から見える。豪華なご祝儀袋を求めて昔からの馴染の客がおばさんの様子を見るのを兼ねて来るようである。車から手を降ってくれる馴染客もいるが誰だか思い出せないとおばさんは言う。
先日久しぶりに紙屋さんに行った。店に入るとすぐにおばさんに隣の小さな椅子を勧められた。
「駅前にの高層ビルの再開発も始まってしまって。どうなることやら、鰻屋はやって高いだけと気がついて空いてますね。私もいつまでも店を出してる時代ではないのに」
相変わらず鋭い見識である。全書芸を一人で続けることになったという報告をニコニコしながらじっと聞いてくれたおばさんは、一人でやってうまくなる人もいる、でも私は添削は全部とってある、きっとまたやりたくなるわよと言葉を続けた。
書道用品も筆しか置いてなくて、品数も着々と減らしてる店内だが安い御香を買う。会計は値段を調べることから始まりお釣りの計算も客がする。
「すいませんねえ、お釣りまで計算していただいて」とおばさんはすかさず少し寂しげに言う。
店をあとにして無人駅になった街なかの駅前に来ると久しく見てなかった街の人なら誰もが知るホームレスのおばさんが拾った掛け布団を隣に置いてベンチに座っていた。いろんな物語があるらしい人で観光客がいなくなり静かになるとふっと現れていたがもうずっと見かけなかった。
なんとなくほっとして街をあとにする。懐かしいがほろ苦い、寂しい思いにいつものようになる。そういえば書道教室の看板を出してる家もなくなった。
家に帰ると家族が書道の古典の法帖を見ている。そして習字なんて一人でできるという。
一体なんで書道をやるのか、向いてないし好きでもないのにと考えてしまった。考えてやるものでもないが。
数日後好きな古典の書の書き方がわからないからやるのだと気が付き少しやる気が出てきた。