鯛焼きとハト

佐藤容齋

今年は、例年より遅い桜も散り、先日は黄砂が日本にも飛んできたとテレビのニュースで言っていた。今日は天気も良いこともあり大久保の書道用品店に印材を買いに行き、その帰りに吉祥寺で下車していつもよく行く薬店でサプリを買った。あとは帰宅するだけだったので駅前の鯛焼き屋に立ち寄り、カリカリの焼きたてをちょうだいと言って一つ買い、店の前の座れるところで食べ始めた。すると、私の前に一羽のハトが寄ってきてウロウロ歩いている。なんとなく、ぼくも食べたいなと言われているようで、一人で食べているのが少し気まずくなった。ためしに小指の爪ぐらい皮のところをちぎってポンと近くに落としたらハトが食べてくれた。もうどこかに飛んでいくのかと思ったら、ひと周りして戻ってきてまた私の足元でウロウロする。それならとちょっとちぎってポンとやるとすぐにパクリと口に入れた。滑稽な感じもしたが、こんなやりとりを6,7回続けているうちにハトと少しは友達になれたような気がした。そのうちに私も食べていた鯛焼きが全て無くなってしまい、またいつかねと別れをつげて去った。

最近、吉田兼好の『徒然草』をユウチュウブの朗読で聴いて楽しんでいる。その一節に鳥や獣にも命、こころがあるのだから大切に扱わなければならいとあるのを思いだした。たかがおこぼれを欲しがって寄ってきたハトといわれるかもしれないが、命あるものとひと時でも仲良くなれたことは嬉しく、少しホッコリした気持ちになった。