超太筆

ペンネーム悪筆子

太―い筆を買った。筆洗いにはバケツが必要かな、半紙にも書けると聞いたがほんとかな、そんな事を考えていると少し気分も浮いてくる。

本当に久しぶりの街。より一層歩く人もなく家に人の気配もない。激減した観光客らしいひとが数軒しかない残った古い店をパンフレットの紙切れ頼りに冷やかしている。そんな人たちもおばさんの紙屋さんには見下したような物珍し気な視線をチラとやるだけで決して入らない。 

レジも壊れ金庫も壊れたとおばさん。ついに茶封筒からお釣りが出てくるようになった。以前もいた年配の女性客が以前と同じく決して買わずにおしゃべりと品物のリサーチだけして店をうろついている。やはり少し薄気味悪い。それでも目には見えなくても親類縁者がしっかり店を支えている気配はして店の将来も決まっているとおばさん。流石は老舗である。

「やはり馬の毛ですよ、太くても半紙に書いてしまうひともいるのよ」とおばさん。いつもの私の愚痴にも「気分の波はあります。私も添削の先生に何言ってるのと思ったこともある」

と答えてくれてほっとする。

街なかの家のお年寄りの様子が周りの様子と違うようだがというとおばさんは黙って頷きながら小声で、よそのお金持ちが家を立て老親だけ移住させてるらしいと言う。最近は周りの様子もよくなくて籠もってるとおばさんは言う。

生和菓子だけはまだ美味しいというおばさんのアドバイスで久しぶりにまた行きだした老舗和菓子屋を冷やかして街を後にした。

超太筆ペンネーム悪筆子半紙にも書ける太筆