お線香

ペンネーム悪筆子

お彼岸に墓地から流れてくるお線香の香りに心が落ち着き線香を買いに行く。
家では一本焚くとお店で言われはじめて知る。ウィンドーの古ぼけたお線香を安くしてくれて買って帰った。 
数日後また行くと今度はウィンドーにずっと飾ってある埃だらけの陶器のお香立てを勧められる。
迷っててふと台の上に目を落とすともう扱ってないはずの半紙が二つおいてある。聞くと倉庫の中から出てきた昔の手漉きの和紙でこれが最後、今はもうどこにもないもので、かなも漢字も書ける、特にかなが書きやすいとのこと、千円は高いがまけてくれたお香の台と買う。お香たての埃のお掃除代と500円玉を渡してくれながら和紙で手際よく剥き出しのお香たてをくるんでくれた。

家に帰りお香を焚いてみると、地味な渋い香りが心地よい。蘭奢待という正倉院にあるお香もこんなかなあとふと思う。甘い香りではない。

早速半紙に書いてみる。かなは墨の掠れ具合が自然で落ち着いてゆったりと書ける。漢字も書き心地が他の半紙と全く違う。字が下手なのがほんとうに勿体無い半紙だが、それもすぐに忘れひたすら紙のよさに酔いしれた最後の手漉きの和紙だった。

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