根津美術館の企画展「古筆切ーわかちあう名筆の美ー」手鑑の価値

牽洋


2025年1月、書友を誘って根津美術館の「古筆切ーわかちあう名筆の美ー」を訪れた。根津美術館は、2年前の2022年の夏、ネーミングに惹かれた企画展「よめないけど、いいね!」以来。
今回は、見終わった後に企画展のネーミングの意味がストンと胸に落ちた。いつもネーミングセンスが光る。

根津美術館の企画展「古筆切ーわかちあう名筆の美ー」手鑑の価値牽洋


「古筆」とは、平安時代から鎌倉時代に書かれた歌集などの和様の書。ついこの間まで、NHK大河ドラマ「光る君へ」(2024年放送)を見ていたので、この平安時代(794年 – 1185年)の様子が映像として浮かんでくる。
平安時代では、貴族が書に秀でた人に古今和歌集などの書写を依頼し、贈答品や調度品とした。その書が、室町時代(1336年 – 1573年)以降の茶の湯の流行と鑑賞のために一紙や一頁、数行単位で分断・分割され「古筆切」となる。


根津美術館の企画展「古筆切ーわかちあう名筆の美ー」手鑑の価値牽洋


根津美術館入口にある隷書体の題字も味わい深い。今回は音声ガイドを借りてじっくりと巡った。

収蔵後初公開となった伝 紀貫之筆の重要文化財「高野切(こうやぎれ)」や個性豊かな古筆が並ぶ。
中でも何度も音声をリピートしたのは、重要美術品「手鑑文彩帖」(奈良~江戸時代8~19世紀)。

手鑑(てかがみ)は、古筆切を台紙に張り込みアルバムのように鑑賞するもの。
桃山時代(1573年 – 1603年)から始まり江戸時代(1603年 – 1868年)にピーク迎える手鑑には、配列には形式があることを知った。

表には、
聖武天皇・光明皇后を置くのが通例
歴代天皇
公卿
能書

裏には、
門跡
武将
歌人
女性の筆跡の女筆・連歌師
が並ぶ。

配列が定形化し、古筆切を張り込んだ順番で価値が変わるという。


手鑑は貴重なものと以前、かなの講習会で教えていただき、それから公開される際には、楽しみの一つになっている。手鑑を目の前に音声と合わせてその重厚感に心惹かれた。

「企画展 古筆切ーわかちあう名筆の美ー」のタイトルにあるとおり、古筆切はこの美しさを「わかちあう」ために生まれた美術品ということを再認識することができた。
感性を育てる美術鑑賞。「どうぞ目習いはお続けください」とアドバイスくださる仮名の先生のお言葉を胸にこれからも目習いの機会はキャッチしていきたい。

かな書道を習い始めのころは、どの古筆を見てもただただ凄いなぁと漠然と眺めていたのが、ようやく自分の好みもでてきたこの喜びを感じながら、一緒に見る書友に「私、これ(この古筆)が好き、この人の筆の感じがいい」と溢れる嬉しさを伝えていた。ほとんどの古筆の筆者が未だにわかっていない中(伝承筆者として誰々が書いたといわれている、と記載の中)、私の推しの藤原定信は、筆跡が確定されている。
数多くの名筆の中で、目習いを繰り返すうちに藤原定信筆「石山切(貫之集下)」のように推しが見つかってきたことは、かな書道を学ぶ上でモチベーションアップにつながっている。

胸いっぱいで美術館を後にした我々は、スペシャリテの人参ムースを楽しみに表参道の路地を散策。北海道出身のシェフが営む表参道で一推しのフレンチレストランで再び心を満たした。


根津美術館
東京都港区南青山6-5-1
(東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線「表参道」駅から徒歩10分)

いつもの書展とちょっと違った根津美術館の「よめないけど、いいね!」牽洋2022

2024年12月21日~2025年2月9日
企画展
古筆切ーわかちあう名筆の美ー

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